多くの名匠から受け継いだ教えを礎に
理想の筆を追い求める
多くの名匠から受け継いだ教えを礎に
理想の筆を追い求める
篠原 紫香
伝統工芸士認定年月日:2026年2月25日
紫香の今
「根元を糸で縛るこの工程。しない人はしないんですが、良い筆を作りたい一心から、私は先生の教えを忠実に守っているんです」。
そう語る紫香氏が向き合うのは、最高級羊毛の煮沸作業。毛の癖を取り脂を抜くこの工程は、筆の書き味を左右する重要な鍵です。大切な原料毛がばらけないよう根元を糸で縛り、まるで贈り物のように丁寧に布で包んだ毛に、細かく温度を調整しながらじっくりと火を通します。
このように、先人たちが磨き上げてきた知恵や技術を大切に守りながら筆作りに取り組む紫香氏の工房。代々守られてきた無数の茶箱が保管されており、中には貴重な原毛が数多く眠っています。長年受け継がれてきた素材を生かしながら、教わった技術を忠実に守る。それが紫香氏の筆作りの根幹となっています。
※最高級羊毛:細微光峰、細光峰
紫香の過去
代々続く筆工房の家に生まれながら、紫香氏が本格的に筆作りの道を歩み始めたのは40歳の頃でした。組合が主催する「筆司会」の募集を目にし、「うちの職人みんなに伝統工芸士の技を教えてあげたい」と、一から技を学ぶ決意をしました。「最初は九人の先生がいらっしゃいましたが、今ではお二人になってしまいました」。異なる技やこだわりを持つ師匠たちから、道具の扱い方や原毛の見分け方、その特性を生かす技術などを学んできた紫香氏。工芸士の先生方の助言を受けながら、一歩ずつ筆作りと向き合ってきました。
遅咲きのスタートだったからこそ、先達が遺した言葉の重みを誰よりも敏感に感じ取り、ひたむきに技を磨き続けてこられたのかもしれません。
紫香の未来
紫香氏の現在の最大の関心事は、自分を育ててくれた熊野の技を生かし、より良い筆作りを追求することです。
注文の筆を作る合間を縫って工房が長年大切に守り続けてきた高級羊毛を使い、自分独自の作品制作にも取り組んでいます。また、伝統工芸士として恥じない実力を身に付けるべく、今なお筆司会に通って、先輩工芸士に指導を仰ぎながら技術の研鑽を続けています。
長い年月の中で育まれてきた熊野筆の伝統。その技と心を次代へ伝えるため、紫香氏は今日も一本一本の筆と真摯に向き合っています。