伝統の素材と技で

伝統的工芸品熊野筆

伝統的工芸品 熊野筆

江戸時代の末期に生まれた熊野筆。時代を重ねる中でものづくりの技は研鑽され、昭和50年(1975年)、経済産業省(当時の通商産業省)からその前年に制定されたばかりの「伝統的工芸品」の認定を受けました。毛筆産業としては全国で初の登録です。

伝統的工芸品の認定は、熊野町が筆の町としてより発展を遂げるきっかけとなりました。

「伝統的工芸品 熊野筆」の基準は、次のようなものです。

名称:熊野筆

技術又は技法:火のし・毛もみには、もみがらの灰を用いること。寸切りには、『寸木』及びはさみを用いること。混毛は、『練りまぜ』によること。糸締めには、麻糸を使用すること。

原材料:穂首は、ヤギ、ウマ、シカ、タヌキ、イタチ若しくはネコの毛又はこれらと同等の材質を有する獣毛とすること。軸の素材は、竹又は木とすること。

製造される地域:広島県安芸郡熊野町

これらの基準を満たした書筆や画筆だけが、経済産業大臣指定の「伝統的工芸品 熊野筆」として「伝統マーク」の入った証紙を貼ることができます。当組合は申し出があった筆について製造ロットごとにサンプルを抜き出し、検査を実施。合格すればそのロットのみ「伝統的工芸品 熊野筆」と認められます。

素材にナイロンや金属を使った筆や、製造工程が異なる筆は認定対象となりません。化粧筆は製造工程や素材が大きく違うので、伝統的工芸品の認定対象外です。

伝統の製法で作られた熊野筆をお探しなら、「伝統マーク」を目印にお買い求めください。

熊野筆伝産証紙R5-091

熊野筆伝統マーク

産地組合等が実施する検査に合格した熊野筆には伝統マークを使った伝統証紙が貼られています。

伝産法とは

「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(略称:伝産法)は、国が伝統的工芸品産業の振興を図ることを目的に施行した法律です。

全国で作り続けられている伝統的工芸品のうち、国は国民の生活に豊かさや潤いを与えてくれる生活用品として、一定の要件を満たすものを指定。数々の産地振興対策をしています。昭和49年(1974年)に制定され、平成4年(1992年)と平成13年(2001年)に改正されました。

荒谷城舟

熊野筆もこの法律に基づき、伝統的工芸品の認定を受けています。

参考:(一財)伝統的工芸品産業振興協会オフィシャルサイト

伝産法に基づく厳しい伝統工芸士試験に合格し、特に高度な伝統的技術や技法を保持すると認定された人が「伝統工芸士」です。当組合は伝統工芸士試験の実施や合否判定を担っています。熊野筆の伝統工芸士試験の受験資格を得るには、12年以上の筆の製造経験と、73あるといわれる工程をすべて一人でこなせる技術が必要です。

人を伝え人を繋ぐ筆の力

熊野の伝統工芸士は、熊野筆を語るとき口を揃えて「飾っておくのではなく、使って書き味を知ってほしい」と言います。筆があまり日常的な筆記用具ではなくなっても、あくまで「かく(書く、描く)」ための道具だと考えているためです。

美しい書画の作品は見る人の心を捉え、丁寧な筆文字で書かれた手紙は人の思いを伝えます。柔らかな化粧の色づきは、その人の印象を演出します。絵手紙の素朴な絵柄や色合いに、心打たれたことがある方も多いのではないでしょうか。それは道具としての筆の力です。

伝統的工芸品熊野筆

インターネット上で世界中の人と情報がやり取りできる時代が訪れましたが、筆の役割は今も変わらず人を伝え、繋ぐこと。その機能を追求することで、機能美を備えた美術品としても価値ある筆が生まれます。

「伝統的工芸品 熊野筆」を購入される際は、ぜひ水書きなどで使い心地や線の出方を確かめてみてください(店頭に水書きの用意がある店舗のみ)。ものによってはしばらく使い続けることで手に馴染み、思い通りに書けるようになる筆もあります。理想の書き心地や線の筆と出会えれば、きっと書画の制作がより楽しくなるはずです。