川尻から熊野へ
産地を跨ぎ筆を作り続けて見えてきたもの

熊野筆伝統工芸士湊剛雪

川尻から熊野へ

産地を跨ぎ筆を作り続けて見えてきたもの

Minato Gosetsu

湊 剛雪

伝統工芸士認定年月日:2008年2月25日

湊剛雪

剛雪の今

剛雪氏は基本に忠実に、手を抜かない丁寧な作業で筆を作ります。「最初の毛もみが不十分だと、墨を十分に含みません」。また毛もみした毛束は、必ずよく梳かして切り揃えます。そうすれば必要最小限の毛で美しい形の筆ができますが、毛がもつれたままだと形が乱れ、毛量で調整するため書き味にも影響してしまいます。

湊剛雪
湊剛雪

筆作りを始めて20年ほど経ったころ、同じく筆司だった父の作業を観察していて気付きました。さらに修行を積んだ40代のころ、「そろそろ一人前になってきたかな」と思っていた矢先にクレームを受け、改めて「手を抜いてはいけない」と自分を戒めたこともあります。筆作りの工程には一つひとつ意味がある。それを実感しながら丁寧に作業を進めます。

※毛もみ:稲わらの灰などをまぶした原毛に火のし(アイロン)をして毛をまっすぐに伸ばし、揉んで表面を傷つけると同時に油分を抜いて墨含みを良くする工程

剛雪の過去

広島県内のもう一つの筆の産地・川尻で生まれ育った剛雪氏。中学校を卒業してすぐ、既に修行を始めていた兄とともに、筆司だった父のもとで筆作りを始めました。休みも一切なく遊びにも行けず、泣きながら父の仕事を目で見て覚える日々。転機が訪れたのは10年後でした。熊野の筆の製造会社から誘われ、思い切って移住。兄も同じ会社で働き始めました。

湊剛雪
湊剛雪

当時は筆の需要が非常に高く、原料毛の買い付けで世界中を飛び回ったり、たくさんの工場スタッフを指導したりと多方面で活躍したといいます。同時に、故郷の父の作業を観察して勉強を続け、一つひとつの工程の大切さなどにも気付いていきました。会社の後押しを受け、50代で伝統工芸士の認定を受けました。

剛雪の未来

「筆作りは自分を育て食べさせてくれた宝です。期待に応える筆を作り続けたい」と話す剛雪氏。伝統工芸士の認定を受けるなど、自分が思っていた以上の成長を遂げることができました。他の産地に修行に行く職人が多い川尻に比べ、地域内の職人が互いに弟子を取り、教え合う熊野の文化。自分を育ててくれた熊野に、職人がもっと増えて栄えていくことを願っています。

湊剛雪
湊剛雪

これまで教えた弟子の中に「筋がいい」と思った人もいましたが、原毛を選り分ける作業を身に着けるだけでも10年かかるといわれる世界です。毛の量や長さのバランスを整える毛組みを身に着けるには、経験を積むしかありません。「独り立ちできるかどうかはその人次第。できる人が教えてあげればいい」と次世代に期待をかけます。

熊野筆 伝統工芸士

湊 剛雪

湊 剛雪 の制作した筆をオンラインショップにて販売しております。