受注した書家の書体を徹底検証
理論的に作り上げる理想の筆

熊野筆伝統工芸士大久保順敬

受注した書家の書体を徹底検証

理論的に作り上げる理想の筆

Okubo Jyunkei

大久保 順敬

伝統工芸士認定年月日:2018年2月25日

大久保順敬

順敬の今

スタンドに立てかけたスマートフォンからラジオの音が軽快に鳴り響く中、真剣な面持ちで作業を進める順敬氏。昔から真空管ラジオや使い捨てカメラなどを分解しては組み立て、仕組みを理解することが好きでした。書家から「この筆のこの部分を少しだけ長くしてほしい」「ほんの少し太くして」などというアレンジの要望を受けると、まずはインターネットで徹底してその書家の作品や書体を調べます。

大久保順敬
大久保順敬

なぜその要望が出たのか、それによってどんな線が書ける筆が欲しいのか、どの毛をどの程度混ぜればそうなるか。理論的に根拠を積み上げ、自信を持って提供できる筆を作ってきました。実演にも積極的に参加し、使う人の声を作品に取り入れています。

順敬の過去

高校卒業後、イタチ毛を得意としていた伝統工芸士の父から1年ほど小筆づくりを習い、筆の製造会社に入社しました。職場は先輩の技を見て習うという世界でしたが、物づくりが好きだったためか吸収が早く、羊毛筆や兼毫筆などさまざまな筆の作り方を覚えました。試作を繰り返し、人一倍努力して早く仕事を覚えたといいます。

大久保順敬
大久保順敬

慣れてくると持ち前の探求心を発揮。他の産地や他社の筆を買ったり借りたりしてきて「売れる筆作り」を研究しました。伝統工芸士の認定を受けたあと40年ほど勤めた会社を辞めて数年前に独立。今は自宅の工房で、江戸時代まで主流だった紙巻筆を分解・再現したり、菊芋の茎を軸に筆を作ったりと仕事の合間に研究にも勤しんでいます。

※兼毫(けんごう)筆:さまざまな種類の毛を混ぜ合わせて作る筆

順敬の未来

順敬氏は全国の伝統工芸士会でさまざまな分野の伝統工芸士と関わる中で、道具としての筆は文化の礎であると考えるようになりました。漆工芸や焼き物、染め物の絵付けなどに、優れた筆は欠かせません。多様な伝統工芸を次世代へ継承していくため、筆業界全体で問題視されている原料の毛の確保に対し、国や行政が輸出国へ働きかけてくれることを希望しています。

大久保順敬
大久保順敬

また後継者の確保も、文化継承の大きな課題です。会社では後進の指導にもあたっていましたが、筆作りには向き不向きがあり、一定以上のレベルに届く人は限られるといいます。「彼らが安心して修行に打ち込むためにも、原料の確保にぜひ国が前向きに取り組んでほしいです」と、期待を滲ませます。

熊野筆 伝統工芸士

大久保 順敬

大久保 順敬 の制作した筆をオンラインショップにて販売しております。