戦後の暮らしを支えてくれた筆がえがき出すもので
世界の和が作りたい

戦後の暮らしを支えてくれた筆がえがき出すもので

世界の和が作りたい

Usui Shinko

碓井 真光

伝統工芸士認定年月日:1981年12月11日

真光の今

「毛の段階で、どれがどの筆になるかは決まっているんですよ」。そうつぶやきながら、皮のついた原毛を素早く丁寧に選り分ける真光氏。

筆の良し悪しは、長さや毛質ごとに毛を選り分ける「選毛(せんもう)」を始め、筆作りの初期工程(下仕事)で決まるといいます。

碓井真光

羊毛筆を得意としており、代表作は1950年に発売した「墨吐龍(ぼくとりゅう)」。柔らかく細い毛がたっぷりと墨を吸い、運筆で出てくる墨の量を調節できる玄人好みの筆です。

経験が足りない職人は、さか毛やすれ毛を取る工程で繊細な毛まで取って捨ててしまうので、熟練の技がなければ決してこの筆はできません。柔らかすぎて使いこなせる書家が限られますが、それだけに根強いファンが多い一品です。

真光の過去

中学校を卒業してすぐに羊毛筆を得意とする工房に就職し、毛の扱い方を学びました。「先輩の技を目で見て盗め」という時代で苦労もありましたが、終戦直後で日本中が物資の不足に喘いでいた中、「筆作りの仕事が暮らしを支えてくれました」と振り返ります。

熊野筆が国から伝統的工芸品の認定を受けた1975年には、既に十分な経験と技術を持っていましたが、女性であることからすぐには認定試験を受けられませんでした。その逆境に負けず、1981年には女性初の伝統工芸士の認定を受けました。「若いころは負けず嫌いだったかもしれませんねえ」と笑う真光氏。男性中心だった筆司の世界に、女性が活躍する足場を1歩ずつ実力で築いてきました。

真光の未来

伝統工芸士に認定されて以来、熊野筆の魅力を伝える活動に力を入れてきました。振興活動でイギリスやアメリカ、フランスなどの諸外国を訪れ、世界の広さを実感したといいます。通信機器の情報だけでなく「手を動かして筆で文字や絵をかくことで繋がりが生まれ、世界の人の和が作れればいいなと思うんですよ」という言葉には、戦争を経験した世代ならではの重みがあります。

町内の観光施設「筆の里工房」への花の植え付けや英語標識の導入、後継者育成に向けた教育制度整備など、次世代を見据えさまざまな提案をしてきました。「何十年も経たないと、何事もうまくいきません」。高品質な筆を作りながら草の根の活動を続けることで、筆作りの未来を支えています。

熊野筆 伝統工芸士

碓井 真光

碓井 真光 の制作した筆をオンラインショップにて販売しております。