手探りで一歩ずつ歩む
自分だけの筆作りへの道

井ノ下恵峰
井ノ下恵峰

手探りで一歩ずつ歩む

自分だけの筆作りへの道

Inoshita Keihou

井ノ下 恵峰

伝統工芸士認定年月日:2025年2月25日

恵峰の今

恵峰氏は筆作りを手掛ける工房に所属しており、主に筆の毛の部分にあたる「穂首」を制作しています。作る筆の種類によって何種類もの毛を組み合わせ、均等に混ぜ合わせて形を整える「上仕事」と呼ばれる工程です。

「前に作った筆と全く同じ配合で毛を混ぜても、前回と同じものはできません。そこを微調整していくところが難しいですね」。

ベテランになるにつれて後継者不足が叫ばれる伝統工芸士の存在を意識するようになり、周囲からの勧めもあって認定試験の受験を決意しました。

それまで経験のなかった軸の繰込みや仕上げ。担当の職人に何度も聞きながら時間をかけて習得し、厳しい試験を突破して伝統工芸士の認定を受けました。

恵峰の過去

熊野町に住みながら、それまでは筆づくりとは関わりのない、全く別の分野で働いていた恵峰氏。ある日新聞の広告で、「熊野筆マイスタースクール」第1期生の受講者募集を目にしました。

「手に職をつけられれば転職に有利かもしれない」という気持ちから、思い切ってそれまでの仕事を辞めてスクールに入校。3ヶ月をかけて伝統工芸士の先輩方から筆づくりの基礎を学び、卒業後は現在も所属する工房に就職して筆づくりの世界に飛び込みました。

会社では筆の命ともいえる穂首作りを担当し、18年が経ちます。マイスター受講当時は夢にも思わなかった伝統工芸士として、熊野筆の伝統を守る立場になりました。

※熊野筆マイスタースクール:熊野筆作りの後継者育成及び技術技法の継承を目的とした事業

恵峰の未来

筆作りの実演や指導に行くと、その工程の多さや粘り強い職人の姿勢に、必ず驚かれるといいます。「ほとんどの方が『もっと筆を大事に使わんといけんね』と声をかけてくださるので、それを聞くと見てもらってよかったと思うんですよ」と、伝統工芸士の役割の一つである実演にも積極的に取り組みます。

18年間をかけて学んでも筆作りには終わりがなく、まだ学ぶことばかりだと感じている恵峰氏。「今はまだ目の前のことに精一杯で、自分が作りたい筆を考えるところまでいっていません」と笑顔を見せます。自分だけの筆作りにたどり着く道を、一歩ずつ確実に歩んでいきます。

熊野筆 伝統工芸士

井ノ下 恵峰

井ノ下 恵峰の制作した筆をオンラインショップにて販売しております。